【BUSINESS・MAGAZINE】
シリーズ一覧

第1回 葉梨 栄治 様       株式会社リコーOB

第2回 田中 雅明 様       公認会計士

第3回 高木 邦彦 様       株式会社ニコンOB

第4回 山本 健美 様       ラボアットサイト社
      代表取締役





商品サイトはこちら


第4回目は、ブラザー工業株式会社OBであり、現在、ベンチャー企業であるラボアットサイト 代表取締役の山本 健美様です。
ブラザー工業株式会社の研究・開発を長年に渡り主導されてこられたご経験から、今回は「研究・開発から見た 無形資産によるリスク軽微」についてお話を頂きました。

 

「無形資産価値の評価」の価値判断相違から発生する法的問題の中から、その一部分である『特許知財関連』のリスクについてを述べて、 その問題の対応の基本となる『無形資産価値の創造』のために費やす、研究開発費、ソフトウェア開発費の算定について、 『研究開発費に係る会計処理基準』のリスクを述べる。

1.特許知財関連

1.1 「他社の特許侵害、商標の侵害」から来る
                    価値判断の相違によるリスク


特許侵害訴訟は競業会社間でよくにぎわす、問題なので、常日頃、目にすることである。インクジェットのカートリッジのキヤノン社、エプソン社と、補給部品の供給メーカー等の問題も、これに含まれる。 又商標の侵害も、偽ブランドやアップルブランドで最近和解した、米国アップル社と英国アップルブランドの和解等も、これに含まれる。 これらは、よく知られているので、研究活動に携わる人は、常日頃、研究開発活動のテーマーにはいる前に、よく調べ、活動を通して、常に、そのリスクを、調査しているので、問題に対しては、「想定済み」の場合が、ほとんどを占めている。
したがって、リスクを下げるための、ライセンス契約を想定した、準備金の積み立て、クロスライセンスによる交渉優位を作るための、関連特許出願と他社特許買取等による準備、訴訟 にならないようにするための、ハイレベルの人的交流など、日常の活動が重要である。
米国の先発明主義から先願主義への移行の上院下院の審議状況が気にかかる。

プロフィール

株式会社ブラザー工業にて、38年間に渡り、研究開発分野を中心に重責を果たされ、ブラザー工業 取締役開発部長、常務執行役員戦略開発部長、 イスラエルZapex社 CEO、USAZapex社 President&CEOを歴任し、MOLSIの研究に従事し、無接点キーボードを発明、電子フルキーボードに育て、 特許発明賞を受賞。USベンチャーとの合弁で、ドットマトリクスプリンターの事業化を初め、全ての印刷エンジン開発とその事業を立ち上げ、 マイクロカプセルによるカラーコピーの開発発明により科学技術庁長官賞受賞。また、通信カラオケの事業推進、マルティメディアに向けた様々 な開発を主導され、これまでの経験を元に現在、ベンチャー企業のラボアットサイトを創業し、Z&Aアルバムの発明、事業化を果たされております。



1.2 「移転価格税制」から来る価値判断の相違によるリスク

企業活動の国際化に伴い、日本の親会社から海外の子会社に多様な知財ライセンス等の契約終結をするケースが増加している。この場合に、適切なライセンス対価の評価・契約等がなされてないのではないか、疑いのもと、税制が絡んで複雑な問題になっている。 海外の販売子会社に対する、再販価格の問題と海外の生産子会社に対する利益未回収の問題である。知財にかかわる無形固定資産の供与に対して、ライセンス料が回収されていないというのが、国税庁による追徴の問題を多発させている。逆に、知財の対価を多く取れば、現地政府から、利益を移転したというクレームが出て、追徴の問題が発生する。 なかなか結論がでないと思いますが、企業グループ内におけるライセンス契約終結と移転価格税制に基づく適正な知財ライセンス契約終結を促進することがリスク軽減となる。
「無形固定資産の評価制度の確立」の軌跡を積み上げることが必要である。


1.3 「特許法第35条職務発明規定」から来る価値判断の相違によるリスク

新しく2005年4月1日より特許法第35条の改正法が施行された。
改正前と改正法の内容を対比をしてみる。

■ 改正前
①職務発明は、発明をした従業員に原始的に帰属する。
②会社は、職務発明について無償の通常実施権を有する。
③会社は、職務発明については、予め就業規則等で、従業員から会社に対して特許を受ける権利、
  特許権を承継(譲渡)させることが出来る。
④従業員が職務発明を会社に譲渡した場合、相当の対価を受ける権利を有する。
⑤その対価の額は、会社の受けるべき利益及び会社の貢献度を考慮して定める。
⑥社内規定等により対価を自主的に定めた場合でも、
  対価の額が不足する場合は裁判により争うことが出来る。
■ 改正後
(1)現行法「①②③④」については同じ。
(2)職務発明の対価は、会社と従業員との「自主的な取り決め」を尊重、契約や社内規定等による定めを原則とする。
(3)社内規定等についての各手続等の状況が重視される。
a.会社と従業員による協議
b.従業員への周知徹底(規定の開示説明)
c.従業員からの意見聴取(異議申し立て)
(4)上記3の各手続の状況を判断し、不合理である場合は、従業員に現行通りの「相当の対価」の請求を認める。 従って、改正前と改正法の差は、従業員と会社間で前もって『発明の対価の価値』を話し合うことを義務化した事ではあるが、「相当の対価」が明白でないので、訴訟はなくならない。

多くの訴訟は、元従業員との間で起こり、社内規定等に不満を持って、社外へ出た後で起こっていることを考えると、『独占的な排他権の活用により得られた利益』 等は、数値化しやすいため規定の開示説明を速やかに行うような対応が必要である。
又、各国法制度において、従業員発明の取り扱いが異なっているので、十分認識をしておく必要がある。国際展開による、研究開発拠点が広がっているので、その国の法制度の理解が欠かせない。

法人発明英国 フランス イタリア ロシア
職務発明ドイツ 日本
従業員発明フランス イタリア 米国・私企業

2.研究開発費に係る会計処理基準の相違によるリスク

何故ここで研究開発に係る会計基準が出てくるかそれは、研究開発は、企業の将来の収益性を左右する重要な要素であるが、 近年、商品サイクルの短期化、新規技術に対するキャッチアップ期間の短縮及び研究開発の広範囲化・高度化等により研究開発費の支出も 相当な規模となっており、企業活動における研究活動の重要性がいっそう増大している。そのため、研究開発費の総額や研究開発費の内容等は、 企業の経営方針や将来の収益予想に関する重要な投資情報として位置付けられるからである。
  • 1.1,1.2,1.3、の項目で述べたように、「無形固定資産の評価制度の確立」の問題が発生したときには必要となる。 その時、決められた会計基準で計算された金額が重要となる。
  • 国際的な会計処理基準を常に理解して、研究開発費、ソフトウェアの会計処理を適切に行い、正しい情報を提供することが常日頃必要である。
  • 会計処理的には、何処の国で研究開発、ソフトウェアを開発したらよいかを把握することも重要である。
ソフトウェアについて米国は、ソフトウェアに係る基準書(SFAS 第86条)において、販売用ソフトウェアの開発費は、技術的実現可能が確定する以前の発生原価は費用処理し、以後の発生原価は、資産に計上しなければならない、資産計上後は見積もり経済耐用年数にわたり償却する。 国際会計基準では、開発費に係る基準書(第9条)が適用されている。

日本における平成11年4月1日より実施されている研究開発費の会計処理基準を以下に示す。

一 定義
1 研究及び開発
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。  開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。) についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。
2 ソフトウェア
ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう。
 
二 研究開発費を構成する原価要素
研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために消費されたすべての原価が含まれる。(注1)
三 研究開発費に係る会計処理
研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければならない。なお、ソフトウェア制作費のうち、研究開発に該当する部分も研究開発費として費用処理する。(注2)(注3)
(注1)研究開発費を構成する原価要素について
特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置や特許権等を取得した場合の原価は、取得時の研究開発費とする。
       
(注2)研究開発費に係る会計処理について
費用として処理する方法には、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法がある。
(注3)ソフトウェア制作における研究開発費について
市場販売目的のソフトウェアについては、最初に製品化された製品マスターの完成までの費用及び製品マスター又は購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用が研究開発費に該当する。
             
(注4)制作途中のソフトウェアの計上科目について
制作途中のソフトウェアの制作費については、無形固定資産の仮勘定として計上することとする。
(注5)ソフトウェアの減価償却方法について
いずれの減価償却方法による場合にも、毎期見込販売数量等の見直しを行い減少が見込まれる販売数量等に相当する取得原価は、費用又は損失として処理しなければならない。
(注6)ソフトウェアに係る研究開発費の注記について
ソフトウェアに係る研究開発費については、研究開発費の総額に含めて財務諸表に注記することとする。

3.まとめ

最近の無形資産の価値の算定について、多方面話題になっている、 
  • 映画、音楽の著作権とその有効権利期間
  • 絵画、骨董品のオークション、TVにおける人気
  • 『暖簾代』による売買時の価値
  • 野球の松坂選手の価値
等の、もっとファジーなものによる価値の算定を考えると、先述した、「移転価格時の知的資産価値の評価」「職務発明による価値評価」は、常日頃の対応により価値の算定は、ある程度可能と思われるので、各国の法制度を念頭に入れた活動により、リスクはかなり軽減できると思われる。  

ビー・ストリーム 編集後記
特許侵害等のニュースは、日頃、目にする事はあります。研究開発において、様々なリスクが存在し、「どのようにリスクを軽減するのか」 「日頃どのような対応が必要なのか」といった非常に具体的な内容であり、ブラザー工業で長年に渡り研究開発分野を主導されてきた山本様の 貴重なお話を皆様のビジネスライフに活かして頂ければと思います。

 

<=第3回を見る